花火史blog Written by 花火歴史家

明治時代の花火「柳に遅れ咲き」の仕掛けを解説|技藝百科全書より

歴史

柳に遅れ咲きとは?

「柳に遅れ咲き」は、まず黄色い煙で柳のような火花を演出し、その煙が崩れはじめたタイミングで菊のような花火が開く仕掛けです。
緩やかな煙の軌道と、突如咲く火花との対比が美しい構成となっています。

構成と製作手順

1. 柳の部分

  • 黄煙剤を約2cmに切って衣掛けし、約40〜50個を用意
  • これらを長玉の張り子に詰める

2. 遅れ咲きの部分

  • 丸玉張り子に、発薬を中心に菊型の火薬玉を並べて組み立てる
  • 導火線は火が移りやすいよう調整し、発薬に接近または挿入

3. 組み立て

  • 導火管を通した長玉張り子に、紙で包んだ発薬を仕込む
  • その周囲に柳火薬と遅れ咲きを配置
  • 丸板で蓋をして留め張りし、完成

現代との比較

– 現代でも「遅れ咲き」は見られるが、「黄煙」を主体とした演出は少ない
– 明治の花火は、煙・時間差・火花といった「演出の間」を重視していた点が特徴的です

参考文献

  • 『技藝百科全書 第五編』
  • 著:内山正如・野口竹次郎
  • 発行:博文館(1889年)

原文(技藝百科全書より)

▼ 原文を表示する

柳に遅れ咲き

この煙火は黄煙剤を堅めて柳となせるを以って黄煙の柳を現すべし。
その柳の形を乱す頃に及びて突然一輪の菊の如き花を出す趣向なり。

最初、用意したる張り子の内に黄煙剤を詰め砕きとなし、長さ六〜七分位に切りて衣掛けしたるものおよそ四〜五十を入れ、遅れ後れ咲きを入るるなり。
この遅れ咲きはまず菊の類を以って良しとなす。
そして此の菊は用意したる丸玉張り子に、発薬を中心に包みて一粒並びに菊粒の衣掛けたるを入れ、そして合わせ、その外部を張りたるものを云う。

此の遅れ咲きの傅火管にはなるべく火の移り易き様、適宜の注意をなし、その口先を柳と共に発薬に接近せしめ、あるいは全く発薬中に差し入れ、それより丸板を以って蓋をなし、次第に留め張りとなるなり。

用意したる長玉張り子とは、既に傅火管を通じ内に発薬を仕込みたるものを云う。

発薬の入れ方は概ね薄き紙を以って包み、之に傅火管を差し入れ置くを通常とす。
即ち国旗につきて述べたるものと等し、丸玉の用意したるものと云えるも之に同し。
然も丸玉は星輪等の如き簡短なる輪を出すにあらされば、丸板を用いて頭部の窪みを塞ぐことなし。
故に発薬は殆どその中心にあるものとす。
そして発薬の周囲は入るる處のものにて取り囲むなり。

次回は「夕立後の遊龍」の構造をご紹介します。幻想的な演出の裏にある、明治の火薬技術をお楽しみに。