明治時代の花火「露引火残月」を読み解く|技藝百科全書より
露引火残月とは?
「露引火残月」は、しだれる火の筋と夜空に残る月を模した光を表現した花火です。
鹿の子模様のように点在する光が垂れ下がることで「露」を表し、月とともに幻想的な情景を作り出します。
製作構成と手順
1. 主な構成と演出の意図
- 露引火:鹿の子状の火を引き、露玉が垂れ下がるように演出
- 残月:明瞭な月を象った光体。空に残る月影をイメージ
2. 材料と準備
- 露引火剤:砕いて詰めるか、丸めて衣掛けしたものを使用
- 月の部品:適切な形・色で準備
3. 組み立てと仕上げ
- 露引火剤と月を張り子に仕込む
- 通常の留め張りの工程で封じて完成
現代との比較・考察
現代でも「月」や「しだれ花火」を用いた情緒的な演出はありますが、
「露引火残月」のように“静けさ”を演出する構成は稀です。
鹿の子模様という表現からも、視覚の奥行きや緩やかな変化を重視していたことがうかがえます。
参考文献
- 『技藝百科全書 第五編』
- 著:内山正如・野口竹次郎
- 発行:博文館(1889年)
原文(技藝百科全書より)
▼ 原文を表示する
露引火残月
これはやや鹿の子火を引きて、先に露玉を帯び、垂下するものなり。
残月とはいたって鮮明なる月の後に残すを以って名つくるものなり。
まず露引火剤を詰め砕きとなし、あるいは適宜に丸めて衣掛けたるものを入れ、また月を入れ、そして通例の方法により留め張りに至る。
元来この煙火は露引火と月との色を示すものなり。
次回は「覆輪真菊」。縁を彩る古典的な花火美をご紹介します。