明治22年の百科事典に書かれた花火「綱火の事」を読み解く|技藝百科全書より
綱火とは?
「綱火」は、綱に火を走らせる仕掛け花火で、点火と同時に竹筒に詰めた火薬が燃焼し、まるで龍星のように火が横に翔ける演出が特徴です。
火が走る様子は迫力満点で、観客を大いに沸かせます。『技藝百科全書』では、その構造と使用方法が紹介されています。
構造と仕組み
- 竹筒に火薬(九二一剤)を詰める点は龍星と同じ
- 竹筒の両端に輪を設けて綱を通す構造
- 火は綱の始点から終点へ向かって移動
演出の流れ
点火すると、綱の上を火が走る仕掛けとなっています。尾がない分、よりスピーディーな動きが強調されます。
活用例と応用
葡萄棚のような大型仕掛け花火では、この綱火が「火の伝達役」として非常に有効でした。火の流れで観客の視線を導き、ストーリー性を持たせる効果もありました。
考察と現代との比較
現代の花火演出では電気式の点火が主流になりつつありますが、火そのものが動く綱火にはまた違った魅力があります。物理的な火の流れを見せることで、観客にリアルな緊張感と驚きを与えたのです。
参考文献
- 『技藝百科全書 第五編』
- 著:内山正如・野口竹次郎
- 発行:博文館(1889年)
原文(技藝百科全書より)
▼ 原文を表示する
綱火の事
綱火とは相隔りたる処に綱を張り、一方の綱元より或るものに迄点火すればあたかも龍星の空中を横に翔け走るが如く、一方の綱方に迄達するものなり。
故に仕掛け煙火にはしばしばこの綱火を用ひて興を添ゆることあり。
例えば葡萄棚の如きは最もこの綱火を用ひて棚に火を傅ふるを良策とす。
そしてこの作り方は殆ど龍星と等しく作り、その竹筒の頭尾両部に輪を作り、これに綱を通し以って口火より火を傅ふるなり。
初め或るものに迄と云ひしは、すなわちこのこうぞうぶつを指したるなり。
右の如くなす時は尾を持たざる龍星の横に走るものなりと知るべし。
次回は「技藝百科全書のまとめ」。技藝百科全書に関する最後の記事になります。