明治時代の花火「國旗」の仕掛けを徹底解説|技藝百科全書から読み解く
國旗花火とは?──明治時代の昼花火
「國旗花火」は、祝典や祭礼の冒頭に昼間打ち上げる花火で、空に“日の丸”を現す仕掛け花火です。
明治22年に出版された『技藝百科全書』には、その製作方法が詳しく記載されています。
花火玉の構造と仕組み
國旗の構成パーツ
- 旗:紅白に染め分けた白木綿(幅約6cm)
- 旗竿:重り付きの芯材
- 吊袋:旗竿の上部に装着される展開補助袋
花火玉の内部構造
- 中央に導火管を通し、二重底構造を形成
- 導火管の先端に発薬(点火薬)を設置し、紙や糠で固定
- 発薬の上に厚い円形板紙を複数枚重ね、火漏れを防止
- 綿密に畳んだ國旗を収納し、蓋を閉じて密封
- 頭部と底部に紙を何重にも貼り、留め張りで仕上げ
明治の職人技と思想が光る設計
– 火薬・布・重心のバランスをすべて手作業で調整
– 「空に國旗を現す」という演出は、儀式・祝賀にふさわしい華やかさ
– 技術と精神が融合した、まさに“日本らしい花火”のかたちです
原文(技藝百科全書より)
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國旗
此れは祝宴祭典等の煙火に昼打ちの最初に出すものにして我が国の旗、日の丸を打ち出すなり。
これを出す方法は国旗の竿の上部に高く釣袋を付け、そして竿の下端には重りを付けるべし。
この竿となるものは幅2寸程の白木綿を源平に染め分けたるを◯とす。
然るときに釣袋は釣袋、旗は旗、旗竿は旗竿と皆打ち出さるると同時に満足に形を現すべき様注意して畳み、そして張り子の中に仕込むなり。さてこのとき張り子は既に傅火管を通しほとんど第四の内に図をもって示しあるが如くなきを得ず。
いずれも未だ傅火管を通したるのみにては、直ちにこの内に組み立をなすべからず。
その先に外部より通したる傅火管は長く張り箱の内部に突出しつつあるをもて。
これよりはまずこの傅火管より更に発薬に傅火のなかだちを考えざるべからず。
これをなすには即ち頭部の円錐状のくぼみを適当の丸板にて仕切り、そして内部に平らかになすべし。
さすれば玉の中はほとんど二重底の如くになる。その如くしてなお二重底のやや上に出たる傅火管の一端に発薬を置く。
発薬は紙にて包み傅火管の一端をその中に差し入るるなり。
発薬は常に多量を用ゆるものにあらざればその周りはよく適宜の品物をもって充塞すべし。
最初は反古紙にても何にてもよく、発薬の高さにまで平均せしめ、しかる後、厚き板紙(円く切りたるもの)をもってこれに覆い、雲母あるいはヌカのたぐいを隙に詰め、再三板紙を入れて火を防塞すべし。
そして始めて張り子の中に国旗を詰むることを得べし。
これを詰むるにあたっては出来るべき丈緩やかに詰むることを要す。
国旗を入れるにはやや厚い曲物用円板をもって塞ぐなり。さてこれからは張り子の留め張りとなる。最初、木をもって塞ぎたるところを巾五六分より一寸4分くらいの紙をもって順次に張り、ニ三回順次に張り終わって、これより全体に張り包むべしことに、頭部、後部に注意して、直開きの憂いなからん様、堅固に張ることを最も重要なり。
参考資料
- 『技藝百科全書 第五編』
- 著:内山正如・野口竹次郎
- 発行:博文館(1889年)
次回は「柳に遅れ咲き」の花火を解説予定。明治の夜空に舞った技巧を引き続き読み解いていきます。