花火史blog Written by 花火歴史家

明治時代の花火「仕込み玉底張り 並びに 仕上げ法」を読み解く|技藝百科全書より

歴史

仕込み玉底張りとは?

花火玉の完成度を左右する最終工程──それが「底張り(留め張り)」や「仕上げ法」です。
長玉と丸玉で異なる処理が求められるこの作業は、安全な打ち上げのために欠かせません。

製作構成と手順

1. 玉の分類

  • 花火玉は「長玉」と「丸玉」に分類される

2. 長玉の底張り手順

  • 底部を丸板で閉じる
  • 紙幅5〜6分〜1寸4分で数周張る
  • さらに大紙で4枚重ねて全体を密閉
  • 頭部の導火線周辺も丁寧に処理
  • 乾燥中は強い日差しを避ける

3. 丸玉の胴張り手順

  • 合わせ目を横断するように紙を張る(2周)
  • 丸玉専用紙で仕上げ
  • 導火線や矢の根元を丁寧に固定
  • 乾燥後、羽根付き矢(1尺5〜6寸)を取り付け

4. 共通事項

  • 底に「吊り紐」を取り付けて吊り下げを可能にする

5. 二重構造時の注意

  • 上下に玉を重ねる場合、導火線の損傷を防ぐ「枕」を設置

現代との比較・考察

導火線が抜けないよう張りを重ねる手法や、枕の設置による安全対策は、今の花火作りにも通じる丁寧さがあります。
100年以上前の知恵が、今も製作技術に活かされているのかもしれません。

参考文献

  • 『技藝百科全書 第五編』
  • 著:内山正如・野口竹次郎
  • 発行:博文館(1889年)

原文(技藝百科全書より)

▼ 原文を表示する

仕込み玉底張り 並びに 仕上げ法

第二十において組み立てたる玉を皆留め張り(すなわち底張りと云う)をなすにまず長と丸との二種を以って分かつべし。

長玉にありてはまず丸板を以って閉じ、そして国旗の組み立て法の終りにおいて示したる如く、最初は幅五〜六分より一寸四分位の紙を以って順次に張った後、張り子を新たに張る如く、大なる合わせ紙を以って張り始め、頭部は傅火管の周囲をかなり丁寧に張り、発薬(打ち粉を云う)の為に裂かれ又は傅火管の抜け出ぬ様すべし。
底は頭部を張りし如く幅五〜六分に裂き、充分下の丸板に密着する様張るべし。
およそ大紙にて四枚を張らば良しとす。
よって良く乾かすべし。
しかし一旦筒穴の模型にて検すべし。(火早き薬を込めたる玉は強き日光に晒すべからず)

丸玉にありては底張りにあらず胴張りなれども丸玉はかなり緊しく合わせ、合わせ目を横切って双方へ一寸位ずつ掛かるべき紙にて張り始め、二廻り程張りて、これより丸玉張り用の紙にて最初玉を張りし如くに充分丁寧に張るべし。
傅火管の周囲及び矢付きの玉は矢の根の所を丁寧に張るべし。
そして乾かすべし。
矢は乾燥した後、厚き紙にて羽を作り長さ一尺五六寸の竹に付け、あたかも通常の矢の如くして玉に前もって作り出したる処に差し込むなり。

玉には長丸を問わず筒穴に釣り下ろす為に、底部にタンスの引き手の如く紐を通ずるものを作り置くを要す。

二つ玉及び玉を数個重ぬる時は、下の玉にて傅火管を損傷するが故に、この如き場合には上の玉の傅火管の両側に、枕と称する傅火管の先より高く出たるものを作り、あらかじめ用意して傅火管を保護すべし。

次回は「早揚法」。花火を美しく、確実に打ち上げるための知恵をご紹介します。