明治時代の花火「吉原夜桜の景」を読み解く|技藝百科全書より
吉原夜桜の景とは?
「吉原夜桜の景」は、夜桜と提灯をモチーフにした情緒豊かな仕掛け花火です。
華やかな名称に反し、構造自体はシンプルで、明治の職人たちが情景を丁寧に表現した作品といえます。
製作構成と手順
1. 基本構成
- 桜の仕込み:第十八「初寝桜」の製法と同様
- 提灯の仕込み:第十七「提灯を出す法」に準拠
2. 防火処理
- 桜設置後、板紙で提灯を保護
- 板紙に穴を開けて、釣り糸を通す火路を確保
- 釣りは発薬に接するよう調整
3. 仕上げと調整
- 桜と提灯が互いに干渉しないよう設計
- 最後に留め紙で固定し、完成
現代との比較・考察
視覚的演出に加え、物語性と伝統が交錯するこの作品。
提灯の扱いに細心の注意を払うなど、当時の職人の配慮が随所に見られます。
江戸の遊郭文化を彷彿とさせる名称も含め、時代の空気をそのまま閉じ込めた一発です。
参考文献
- 『技藝百科全書 第五編』
- 著:内山正如・野口竹次郎
- 発行:博文館(1889年)
原文(技藝百科全書より)
▼ 原文を表示する
吉原夜桜の景
名称は余程大なりといえども組み立ては別段に面倒ならず。
まず桜と提灯を出すを以って足れりとなす。
桜は初寝桜に示す処と異ならず。
提灯は第十七提灯を出す法として前に述べたる如くなすのみ。
然れども桜を仕込む時は提灯は常に焼け勝ちなれば注意して防火の手段をなすべし。
故に桜を込めたらば一旦板紙を以って火の提灯にまで及ばさる様、能く防ぎ、その板紙に穴を明け提灯内の釣りに火を傅ふる為に、この釣りを桜と共に発薬に接せしめ置かざるべからず。
かくして尚、適宜の防火法を行ひ留め紙となす。
次回は「星輪十文字」をご紹介します。精緻な輪と十字の交差演出をどうぞお楽しみに。