明治時代の花火「五段瀧晴夜の眺」を読み解く|技藝百科全書より
五段瀧晴夜の眺とは?
「五段瀧晴夜の眺」は、5つの段階で展開される瀧のような火薬と、釣星と呼ばれる色とりどりの火薬を組み合わせた複合型花火です。
明治22年刊行の『技藝百科全書』に詳細な製作手順が記録されています。
製作構成と手順
1. 五段瀧の構造
- 柳火薬を使用して滝のように見せる
- 各段には誘火管を設置して連続的に点火される構造
- 第一段から第四段までは「留め張り」なし
- 第五段でのみ「留め張り」を施し完成
2. 詰め方の工夫
- 中央に発火薬、周囲に柳剤を配置
- 誘火管の火が次段へ確実に移るよう、誘火紙を丁寧に仕込む
- 一連の点火が失敗しないよう精密な設計が必要
3. 晴夜の釣星について
- 赤・白・青などの色火を使用した「釣星」
- 別の浅型張り子に詰め、吊り構造で展開
- 夜空に広がる多彩な火の演出を担う
現代との比較・考察
明治時代の職人は火薬の伝播だけで連続点火を設計していましたが、その技は現代の花火にも引き継がれています。
五段の瀧を一つの玉で演出する発想と技術には、当時の技術力の高さがうかがえます。
参考文献
- 『技藝百科全書 第五編』
- 著:内山正如・野口竹次郎
- 発行:博文館(1889年)
原文(技藝百科全書より)
▼ 原文を表示する
五段瀧晴夜の眺
瀧は柳に似たり。
五段瀧は初段より次第に開き、終りに五段の瀧を現すなり。
これに添ゆるに晴夜の眺なるあり。
これに赤白青その他種々の色火を以って釣星となしたるものを数多現すなり。
そしてこれに用ゆる張り子は皆浅きものなり。
この詰め方は用意したる短き張り子に、中央に発薬を盛り、周囲に柳用の詰め砕きを並べ以って一段をなし(第一段より四段迄留め張りなし)次に第二段は底の平らなる張り子に三分程の簡易傅火管を通し、外部に出たるすなわち尖きの方には、よく第一段の方より火を受ける様、巧みに誘火紙を付け、その中には第一段の如く同じものを同じ様に詰めるなり。
第五段まで皆その如し。
第五段目は留め張りをなすことごとく詰め終りて、五段共皆合わせて一の長き玉と張るなり。
故に初段現わるれは二段の傅火管はその時火を受けるが故に、暫時にして二段現わる如くこの五段あやまちなき様、各傅火管に注意最も要々なり。
二段より傅火管に火移らされば、むなしく落ちるのみ。
晴夜の眺めは前に述べし如く数多の釣を出すなり。
これは別の張り子を用ゆ。
詰め方は推して知るべし。
次回は「銀山」をご紹介。圧倒的な白焔と轟音が響く、明治の力強い作品です。