明治時代の花火「星輪十文字」を読み解く|技藝百科全書より
星輪十文字とは?
「星輪十文字」は、通常の輪形の花火(星輪)の中に、十文字型の火花を同時に描き出すという演出を加えた花火です。
明治時代の資料『技藝百科全書』では、その構造や火薬の工夫が簡潔に記されています。
製作構成と手順
1. 星輪の基本構造
- 白焔剤を用いて輪状に広がる星輪を構築
- 玉の内部構造は従来の星輪に準拠
2. 十文字の演出方法
- 柳菊のような色を発する「炭化剤」を使用
- 輪の内部に、十文字形になるよう炭化剤を4箇所に配置
3. 燃焼時間の調整
- 白焔剤と炭化剤では燃焼時間が異なるため、発光タイミングを合わせる工夫が必要
- 火花のバランスがずれると形が崩れるため、職人の繊細な調整が求められる
現代との比較・考察
形や時間の調和を完全に目視・感覚で調整していた明治の花火職人。
単なる発光だけでなく、図形としての完成度を追求する姿勢は、まさに芸術家の域です。
参考文献
- 『技藝百科全書 第五編』
- 著:内山正如・野口竹次郎
- 発行:博文館(1889年)
原文(技藝百科全書より)
▼ 原文を表示する
星輪十文字
普通の星輪内に炭化剤(すなわち柳菊の如き火色のものを云う)を以って十文形を現はすなり。
この法は組み立て星輪に同じく、ただ四ヶ所に一個ずつ炭化剤を並べ込むなり。
然どもこの燃え時間は白焔剤のものと等しからさるを得ず、長短あるべからず。
次回は「露引火残月」をご紹介します。光と影の繊細なコントラストをご堪能ください。